~“シンプル・イズ・ベスト”― 街並みに違和感をあたえないが基本~
第13回 間取りは同じでも、屋根の形は自由

013-01.jpg マイホームの外観デザインは、ライフスタイルや好みで自由に選ぶことができます。 ただ、建物の外観デザインは、その家の“顔”といわれるように、訪れる人の第一印象を決定づけるものです。 実際、門を入る前に建物を見るだけでその家の暮らし方がかなり分かるといわれるほど、実に様々な表情をあらわすものですから、 そうした点を十分考えてから選んでください。

 例えば、住宅も画一的な時代は去り、多様化、個性化が進んでいますが、個性を主張しすぎたばかりに、その街の雰囲気に 馴染まないデザインの建物は感心しません。建物の外観デザインは、一軒一軒の建物が街並みを構成する一員となって 良好な住環境を形成するわけですから、そこで生活する人たちだけが満足すればよいという問題ではないからです。 その街らしさを感じさせる、違和感のないデザインというのが基本だと思います。そこで今回は、建物の印象を決定づける 大きな要素である屋根について考えてみました。

外観デザインは、間取りづくりと同時進行で
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 間取りと外観は、家づくりの両輪です。「間取りはなんとか考えられるが、外観となるとお手上げです」という人がいますが、 はたしてそうでしょうか。

 間取りが平面的に住まいを考えるものなら、外観は立体的に考えるものです。間取りが内ならば、外観は外というように 切り離して考えるものでもありません。間取りが決まった時点で、外観も自然に形づくられるからです。プランニングの際には、 間取りと外観を同時進行で考えるものです。

 では、建物の外観を決める要素とは何でしょうか。それは、住まい方、周辺環境、建物の構造、法規といった いくつもの要素がからみあって決まるものですから、これが決め手だというものはありません。間取りが色々な希望が からみあって成り立つのと同様、外観デザインも基本的には自由に決められます。ただ、屋根の形だけを考えても、 北海道や東北など雪の多い地方では屋根の勾配を急にしたり金属板で葺いたりしますが、九州や沖縄では寄せ棟とか方形にして 風の抵抗を少なくするなど、地域による特徴があります。このように自然条件への対応が屋根の形によく表れていますが、 これは昔からの知恵で工夫しながら、快適で安全な住環境をつくっているからです。

 東京近郊は、自然条件が比較的恵まれた地域ですが、狭い敷地しか確保できないなど社会条件という点では地方に比べて 劣っています。充分な広さを確保した敷地なら自由にデザインできますが、敷地を効率よく使いながら隣近所との プライバシーの問題などを解決しなければならないわけですから、当然、それを反映した間取りや外観が主流になっています。

 こうしたことを考えると、現在、東京近郊で分譲されている多くの建売住宅は、デザイン面で面白さに欠けている という人もいますが、大都市ならではの様々な制約のなかで、多くの供給実績とユーザーの生の声を反映した、 完成度の高い間取りと外観だといえるのではないでしょうか。
屋根のかけ方で決まる、建物の第一印象
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 建物の第一印象は、屋根のかけ方で決まるといっても過言でないほど大事な要素だといいました。 具体的に間取りと外観の関係を考えてみましょう。

 平面が矩形や正方形で凹凸のない建物は、どんな形の屋根でもかけることができます。 しかし、いくら自由に決められるからといっても、単純な平面プラン(間取り)の上にわざわざ複雑な屋根をかける必要性は 絶対にありません。複雑な屋根の方が高級感があると錯覚している人もいるようですが、こうした考えはまったくの間違いで、 正解は“シンプル・イズ・ベスト”。屋根の形は単純なのが一番です。

 単純な形の屋根は、何故よいのでしょうか? 機能面から考えれば、複雑になればなるほど雨漏りの原因につながる “谷”と呼ばれる部分が多くなります。いくら個性を主張した建物でも、雨漏りがするようでは欠陥住宅といえます。

 美しさという面で考えても、大きなひとつの屋根なら、どの方向からみても同じ屋根だと分かるし、 “むくり”とか“そり”といった微妙な演出も単純だからこそ生きてきます。京都の古い街並みの美しさは、 この単純な屋根の連続が生み出しているのです。あちこち向いている複雑な屋根が並んでいては、決して趣を感じさせる 甍いらかの波は生まれません。

個性を主張しすぎない、落ち着いた気品
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 代表的な屋根の形を紹介しましょう。一番シンプルな屋根の形は、「片流れ」と「陸屋根」です。 片流れとは、文字通り大きな一枚の屋根に傾斜をつけてかける方法ですが、屋根の荷重が低い方の柱に集中しますから、 規模が大きな建物では安定しにくいといえます。また、南側を高くすることで太陽の日をたくさん室内に取り入れられますが、 最近は夏の暑さを考えて敬遠する人も多く、週末に利用するセカンドハウスなどで見かける程度です。

 鉄筋コンクリートづくりの建物でよく見かける陸屋根は、全体が平坦ですから効率がよい半面、単純すぎるので 外装に工夫をしないと味気ない、つまらない外観になりやすいのが難です。また、傾斜がないため雨仕舞いの処理も 他の屋根に比べて充分にする必要があります。

 最も一般的な屋根の形は「切り妻」です。屋根の中央を高くして、左右に傾斜をつけてかけます。 スパンの短い方にかけるのが普通ですが、長い方にかけると「大屋根」と呼ばれ、民家などで多くみられる形です。 2階部分が1階の中央に乗る建物だと、どっしりとした美しいシルエットが期待できます。

 切り妻の妻側に屋根をかけると「寄せ棟」になります。風に対して最も安定していますが、棟がつながっているので 最も高い部分の周囲の雨仕舞いが難しくなります。建物の四方から中心に向かって屋根をかけるのが「方形」です。 正方形に近い、比較的小規模な建物で多くみられます。

 どの屋根の形がベストかということは、平面プランや建物の規模、街並みなどによって違います。 ただ、どのような外観にするにせよ、建物はその家で生活する人だけのものではありません。前記した通り、 一軒一軒の建物が集まって街を形成するわけですから、わが家も地域環境の一部です。だからこそ、窓辺や庭先の草花、 風にそよぐカーテン、窓からもれる光など、そこでの生活のにおいは、道行く人に豊かさを感じさせてくれるのです。

 個性的過ぎるデザイン、飾りすぎた外観より、一歩引いた落ち着い建物こそ、住む人の気品を感じさせてくれますし、 自然と環境に溶け込むものです。“シンプル・イズ・ベスト”を忘れないでください。

資料提供:ハウジング企画社 記事:オフィス サード アベニュー 斉藤良介
※2004年に掲載されたものを転記しています。


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