~不動産業者に義務付けられた原状回復費用等の書面での説明~
第24回 賃貸住宅紛争防止で東京ルール施行
5年で倍増した相談件数

024-01.jpg  敷金の精算など、賃貸住宅に関するトラブルが増加の一途をたどっています。 東京都消費者生活総合センターと都内各区市町村の消費者相談窓口に寄せられる相談件数は、 1997年から1999年までは年間3,000件前後で推移していましたが、翌2000年に4,000件の大台を突破し、 2003年には6,642件とここ5年間で実に2倍以上に急増しています。

 相談内容で最も多いのは、退去時の敷金の精算に関することで全体の22%、次いで入居中の修理や修繕を含む 管理問題の13%となっており、入居者とオーナーの話し合いで解決できずに裁判に持ち込まれるケースも珍しくありません。

 トラブルを未然に防ぐには、退去時の原状回復費用について基本的な考え方を理解するとともに、 入居中の設備管理などについてもより具体的に制度化し、入居時に双方が納得しておくことが大事なのです。

 東京都が10月1日から施行する「東京都における住宅の賃貸借に係る紛争防止に関する条例(=賃貸住宅紛争防止条例)」は、 賃貸住宅を仲介する不動産業者に賃貸住宅の原状回復費用や入居中の修繕などについて、法律上の原則や判例によって 定着している考え方を借り手に対して書面で説明するよう義務付けるものです。全国で初めて不動産業者に対して義務付けた 制度ですが、その内容は入居者にとって大変重要なことですから、これから賃貸住宅に入居を予定している人はぜひ 理解しておいてください。
経年変化や通常の損耗は貸し主負担が原則
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 不動産業者が書面での説明を義務付けられた、つまり入居者が説明を受ける内容は、 (1)退去時における住宅の損耗などの復旧は、当事者間の特約がある場合または借り主に責任がある復旧を除き、 貸し主が行うのが基本、(2)住宅の使用および収益に必要な修繕は、当事者間の特約がある場合または借り主に責任がある 修繕を除き、貸し主が行うのが基本、(3)賃貸借契約の中で借り主が負担する具体的な事項、 (4)借り主の入居期間中の設備などの修繕・維持管理について連絡先となる者の氏名と住所です。 また、この書面を交付しての説明は、条例で重要事項説明と併せて行うことになっています。

 つまり、費用負担の一般原則は、入居中に住宅の使用や収益に必要な修繕、退去時の経年変化や通常の使用による 損耗の復旧は貸し主の負担ですが、借り主の故意・過失や通常の使用方法に反する使用などで生じた損耗の復旧は借り主の 負担となります。ただし、例えば入居中の小規模修繕については借り主が自己負担で行えたり、退去時も一般原則と異なる 特約を定めることもできます。こうした特約がない場合は、借り主の負担は一般原則に基づく費用のみで、特約がある場合でも 一般原則に基づく費用と借り主が負担すると具体的に定めたものに限られるわけです。

 なお、説明を行わなかったなど条例に違反した不動産業者は、東京都から指導・勧告が行われ、それでも従わなかった場合は 氏名などを公表されるなど実効性を確保するための罰則があります。



具体的な費用負担を書面で確認
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 実際の説明時に使用し交付する、東京都が発表した書面のモデル(別掲参照)でもう少し具体的に説明内容を確認してみましょう。

 最もトラブルになりがちな退去時の費用負担は、一般原則として経年変化や通常使用による損耗、 例えば壁に貼ったポスターや絵画の跡、日照などの自然現象によるクロスの変色、テレビ・冷蔵庫等の背面の電気ヤケなどは 貸し主の負担ですが、借り主の故意・過失や通常の使用方法に反する損耗、例えば飼育しているペットによる柱等のキズ、 引っ越しで生じたひっかきキズ、エアコンなどからの水漏れを放置したために生じた壁や床の腐食などは借り主が復旧費用を 負担することになっています。例外として双方の合意によって特約を定めることもできますが、 内容によっては無効になることがあります。

 この条例では、退去時だけでなく入居中の修繕などについても、貸し主が費用を負担するのか借り主が負担するのかを 定めています。それによると、費用負担の一般原則は住宅の使用および収益に必要な修繕、例えば貸し主が所有している エアコン・給湯器・風呂釜の経年的な故障や雨漏り、建具の不具合は貸し主の負担となります。 これに対して、入居期間中に借り主の故意・過失や通常の使用方法に反する使用、例えば子供が遊んでいて誤って割った窓ガラス、 お風呂の空だきによる故障などは借り主が費用負担することになります。

 ただし、これも一般原則にかかわらず双方の合意により小規模な修繕、例えば電球や蛍光灯、給水・排水栓のパッキングの 取り替えなどについては貸し主の修繕義務を免除するとともに、借り主が自らの費用負担で行うことができる旨の特約を 定めることができます。

 なお、退去時も同様ですがこの特約で特に借り主の負担となる内容については、具体的に記入する欄を設け、 特約がないときは一般原則に基づく費用のみであることを明記しなければならないことになっています。
対象は東京都内の居住用賃貸住宅

 この賃貸住宅紛争防止条例は東京都の条例ですから、適用範囲は東京都内にある居住用の賃貸住宅を媒介・代理する場合で、 店舗や事務所などの事業用は対象外です。つまり、東京都内の不動産業者が北海道とか九州の賃貸住宅を媒介するときは 説明義務がありませんが、東京都以外の不動産業者が都内の賃貸住宅を扱う場合は説明の義務があります。 説明義務の対象となる物件は、所在地で決まるわけです。ただ、東京都には近県からの問い合わせも多いので、 いずれは対象地域が拡大すると思います。

 国土交通省は今年の2月、より具体的な事例を掲げた原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(改訂版)を発表しましたが、 その後も依然として紛争防止の決め手にはなっていません。ガイドラインが通常かどうかというあいまいな表現を 使っているからです。トラブルを極力少なくするためにも、契約する前に納得するまで説明してもらうようにしましょう。
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写真提供:ハウジング企画社/記事:オフィスサードアベニュー 斉藤良介
※2004年9月に掲載されたものを転記しています。


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